映画「モンスター」はラブストーリーである。リー(シャーリーズ・セロン)とセルビー(クリスチーナ・リッチ)の関係を軸に、1人の売春婦が連続殺人者に転落していく様を中心に描いている。切ないラブストーリーだが、決してお涙頂戴のメロドラマには陥っていない。これがデビュー作の女性監督パティ・ジェンキンスは、新人らしからぬ手堅い演出を見せる。「モンスター」で描かれている内容は、ほぼ事実に忠実である。リーが逮捕されるシーンは、実際にアイリーンが逮捕されたバー“ラスト・リゾート”で撮影された。また、裁判のシーンで一瞬しか映らないが、リーの隣にいる女性弁護人も実際の人物によく似ている。映画を面白くするために事実をねじ曲げるような、いわゆるハリウッド的演出は行われていない。ジェンキンスとセロンは実際のアイリーンに会うことができなかった。そのかわり、死刑の前日、アイリーンは2人に自分が獄中で書いた親友宛の膨大な手紙を見ることを許可する。「真実を伝えることが、映画を観ることなく処刑されたアイリーンへの責任を果たすことになる」。「モンスター」には、2人のそんな思いが込められているように思う。

シャーリーズ・セロンの演技は文句なしに素晴らしい。体重を13キロ増やしたとか、メイクで本人そっくりに変身したとかいうことは、さほど重要ではない。映画ではあまり語られていないが、幼少の頃からアイリーンが受けてきた数々の精神的苦痛により形成された人格を、セロンは見事に表現してみせた。セロンは本作「シリアル・キラー アイリーン」のインタビューシーンを繰り返し見て、アイリーンの言葉遣いのクセや表情の特徴(例えば、アイリーンは怒る時大きく目を見開く)を習得した。よく見ると、実際のアイリーンとリーの外見はそっくりというほどではない。しかしアイリーンがもつ独特の雰囲気や存在感は、「モンスター」の中でリアルに再現されている。

アイリーン事件のもう1人の主役がタイラ・ムーアだ。アイリーンの恋人であり、殺人者に転落するきっかけをつくり、逮捕されたアイリーンを保身のために裏切った。あげく映画化権により、タイラには相当な額の金が転がり込むことになっている。「モンスター」でタイラ(役名はセルビー)を演じるのは、クリスチーナ・リッチ。実際のタイラはリッチのようにチャーミングではない。太っていて顔つきも険しい。しかし性格は明るく、思いやりがあり、誰からも好かれた。それに比べ、セルビーはやや内向的な性格に描かれている。果たしてアイリーンは自分を裏切ったタイラのことをどう思っていたのだろうか。「シリアル・キラー アイリーン」には、アイリーンがタイラのことを語るシーンも収録されている。